先に結論を書きます。60日は上限であって、標準ではありません。フリーランス法第4条第1項は「六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において」と定めており、法律が求めているのは「60日ならよい」ではなく「できる限り短く」です。この一文が、交渉のときに使えます。そして支払サイトは、そのまま必要な運転資金の額に直結します。30日縮めれば、月商1か月分が手元に戻る計算です。この記事では、条文の根拠と、実際に何をどう切り出すかを整理します。
支払サイトは「決まっているもの」ではない
私はファクタリングの審査をする側にいます。相談を受けていて、もったいないと感じることがあります。支払サイトを、最初に提示された条件のまま何年も使い続けている方が多いことです。
単価の交渉は誰でも考えます。ところがサイトは、なぜか交渉の対象として認識されていない。実際には、サイトを30日縮めることは、単価を上げることと同じくらい資金繰りに効きます。しかも相手にとっては、支払総額が変わらない話です。
サイトが資金繰りに効く仕組み
必要な運転資金は、おおまかに「月商 × 支払サイト ÷ 30」です。納品してから入金までの間、その分の資金を自分で立て替えていることになります。
| 月商 | サイト30日 | サイト45日 | サイト60日 | サイト90日 |
|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 30万円 | 45万円 | 60万円 | 90万円 |
| 50万円 | 50万円 | 75万円 | 100万円 | 150万円 |
| 100万円 | 100万円 | 150万円 | 200万円 | 300万円 |
| 200万円 | 200万円 | 300万円 | 400万円 | 600万円 |
月商100万円でサイト60日なら、常に200万円を立て替えている状態です。これを30日にできれば、立て替えは100万円で済みます。差額の100万円が、そのまま手元に戻ります。 借りずに、売上を増やさずに、です。
条文が「できる限り短く」と言っている
交渉の根拠は法律にあります。2024年11月1日施行のフリーランス法、正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」の第4条第1項です。
特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
読むべきところは二つあります。
「六十日の期間内において」。 これは上限です。60日を超える設定は、この規定に違反します。
「かつ、できる限り短い期間内において」。 これが交渉で使える部分です。60日に設定しておけば法律を満たす、という書き方になっていません。短くできるならそうしなさい、と書かれています。
そして第2項が、違反したときの扱いを定めています。
前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。
| 契約上の定め | 法律上の支払期日 |
|---|---|
| 「翌月末払い」など60日以内 | その日 |
| 定めなし | 給付を受領した日 |
| 「翌々月末払い」など60日超 | 受領日から60日を経過する日 |
契約書に「翌々月末払い」と書いてあっても、受領日から60日を超えていれば、法律上の支払期日は60日経過日です。契約書の文言がそのまま通るわけではありません。
再委託のときは30日
第4条第3項は、別のルールを置いています。発注者が元請から受けた仕事を再委託する場合で、再委託である旨・元委託者の名称・元委託の支払期日などを明示しているときは、支払期日は元委託支払期日から起算して30日以内でなければなりません。第4項により、定めなかったときは元委託支払期日そのものが支払期日とみなされます。
「元請から入ってこないと払えない」という説明を受けたことがあれば、この条文を確認してください。元請からの入金日を基準に、そこから30日以内です。
取適法の側でも条件は厳しくなった
2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の改正法が施行され、中小受託取引適正化法(取適法)になりました。用語も変わっています。
| 旧 | 新 |
|---|---|
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
公正取引委員会のリーフレットによれば、変更点のうち支払条件に関わるものは次のとおりです。
- 手形払いが禁止された。あわせて、支払期日までに代金相当額の満額を得ることが困難な支払手段(電子記録債権等)も禁止された
- 従来の資本金基準に加えて、従業員基準(300人、100人)が追加された
- 対象取引に特定運送委託が追加された
- 協議に応じない一方的な代金決定が禁止行為に加わった
支払期日は「受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内」、遅延利息は年率14.6%です。
その前段として、2024年11月1日には下請中小企業振興法にもとづく「振興基準」が改正され、手形等で支払う場合の支払サイトについて、業種を問わず60日以内とすることを徹底するとされました。従来の120日から短縮されたものです。
流れは一方向です。支払条件は、行政の側から継続的に短縮が求められています。交渉を切り出すことは、相手にとっても不自然な話ではありません。
交渉の前に、自分の側を整える
サイトの交渉は、相手の経理処理の都合を動かす話です。感情論では動きません。準備が要ります。
1. 現状を数字にする
いま何日サイトで、いくら立て替えているのか。上の表に自分の月商を当てはめてください。「60日は長いと思う」ではなく「常時200万円を立て替えています」と言えるようにします。
その前提として、入金と支払いの時期を一枚の表にしておく必要があります。手順は資金繰り表の作り方に書きました。
2. 検収と請求のタイミングを見直す
意外な盲点です。サイトの起算点は納品や受領の日ですが、実際の入金が遅れる原因が、自分の請求書の出し方にあることがあります。
- 納品したのに請求書を月末にまとめて出している
- 検収の連絡を待ってから請求書を作っている
- 請求書の締め日を勘違いしていて、毎回1か月ずれている
これらは相手と交渉しなくても直せます。まずここを確認してください。
3. 落としどころを二段階で用意する
いきなり「30日にしてください」と言って断られると、そこで終わります。二段階で用意します。
- 本命:締め日と支払日を1か月前倒しする(例:月末締め翌々月末払い → 月末締め翌月末払い)
- 次善:一部だけ先に払ってもらう(着手金、分割検収、月次の部分請求)
次善案があると、相手も「全部は無理だが一部なら」と言いやすくなります。
何をどう切り出すか
実際の伝え方です。責める形にしないことが要点になります。
悪い切り出し方:「支払いが遅すぎます。法律違反ではないですか」
現実的な切り出し方:「継続してお受けするために、支払条件の見直しをご相談させてください。現在の条件だと、常時◯◯円を立て替える形になっており、受注量を増やすのが難しい状況です。フリーランス法でも『できる限り短い期間内において』と定められていますので、翌月末払いに変更いただけないでしょうか」
違いは三点です。
- 取引を続けたいという前提を先に置く。 交渉は関係を切る話ではないと伝えます
- 自分の事情を数字で言う。 「立て替えが重い」ではなく金額です
- 条文には触れるが、責めない。 「違反です」ではなく「そう定められています」で止めます
相手の担当者は、支払条件を決めた本人ではないことがほとんどです。経理のルールとして受け取っているだけで、悪意はありません。担当者が社内で稟議を上げやすい材料を渡す、という意識で臨むと通りやすくなります。
断られたときに聞くこと
一度で通らないことのほうが多いです。そこで引かずに、次の一つだけ聞いてください。
「変更が難しい理由は、社内の支払サイクルの都合でしょうか。それとも与信や契約上の理由でしょうか」
前者なら、締め日をずらすだけで実質的に前倒しできる場合があります。後者なら、そもそも交渉の相手が違います。理由が分かれば、次に打つ手が変わります。
それでも動かないとき
条件が変わらず、資金繰りが持たない場合の順番です。
まず、支払いを待ってもらう側に回れないか。 納税の猶予、国民健康保険料や国民年金保険料の減免・猶予、家賃や公共料金の分割。借りて払うより、待ってもらうほうが総額は小さくなります。運用は自治体で異なるため、納付書に記載された窓口で確認してください。
次に、無料の窓口に相談する。 フリーランス・トラブル110番(0120-532-110、平日9時30分〜16時30分)は、厚生労働省から第二東京弁護士会が受託して運営しており、相談も和解あっせんも無料です。支払期日が法律の範囲を超えている場合は、公正取引委員会または中小企業庁長官への申出という道もあります(フリーランス法6条1項)。申出をしたことを理由とする取引の停止や数量削減は、同条3項で禁じられています。
そのうえで、請求済みの売掛金を期日前に現金化する方法があります。 支払サイトそのものを短くできないなら、入金のタイミングを自分の側で動かすという考え方です。借入ではないため、返済も利息も発生しません。当社は5万円から取り扱っています。何を見て判断しているかはファクタリングの審査で実際に見ている5つのことに、融資との違いはファクタリングと銀行融資は何が違うのかに書きました。
ただし、繰り返し使う前提で設計するものではありません。手数料は毎回かかります。サイトの交渉が本命で、現金化はその間をつなぐ手段だと考えてください。
よくある質問
Q. 契約書に「翌々月末払い」と書いてあります。有効ですか。
受領日から60日を超えていれば、フリーランス法第4条第2項により、法律上の支払期日は受領日から60日を経過する日とみなされます。契約書の文言がそのまま通るわけではありません。
Q. 60日以内なら何日でもよいのですか。
条文は「六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において」定めなければならないとしています。60日は上限であって、そこに設定してよいという意味ではありません。
Q. 「元請から入金がないと払えない」と言われました。
第4条第3項は、再委託の場合(再委託である旨や元委託の支払期日などを明示している場合に限る)、支払期日は元委託支払期日から起算して30日以内と定めています。元請からの入金を基準にしても、そこから30日以内です。
Q. 手形で支払われています。問題ありませんか。
2026年1月1日施行の取適法により、手形払いは禁止されました。支払期日までに代金相当額の満額を得ることが困難な支払手段も同様です。ただし取引の内容と当事者の規模によって適用される法律が変わるため、具体的な扱いは窓口で確認してください。
Q. サイトの交渉をしたら、切られませんか。
条件交渉そのものを禁じる法律はなく、申し出るのは正当な行為です。なお、公正取引委員会・中小企業庁への申出をしたことを理由とする取引の停止や数量の削減は、フリーランス法第6条第3項で禁止されています。
Q. 相手が一人会社の場合はどうなりますか。
支払期日を定める第4条は特定業務委託事業者に適用されます。公正取引委員会の説明によれば、これは従業員を使用する個人、または二以上の役員があるか従業員を使用する法人です。代表者一人で従業員もいない会社からの発注には、第4条は適用されません。
Q. サイトを短くしてもらう代わりに、単価を下げるべきですか。
その必要はありません。支払サイトの短縮は、相手にとって支払総額が変わらない話です。資金の出る時期が早まるだけで、損をするわけではありません。単価と引き換えにする前提で切り出すと、かえって交渉が複雑になります。
サイトの交渉と並行して、いま請求済みの売掛金をどう扱うかも選択肢になります。手段ごとのコストを揃えて比べる方法は個人事業主が売掛金を現金化する4つの方法|手数料を年利に直して比べるに書きました。
まとめ
要点は3つです。
- 60日は上限であって標準ではありません。フリーランス法第4条第1項は「できる限り短い期間内において」と定めています。交渉の根拠はここにあります。
- サイトを30日縮めると、月商1か月分が手元に戻ります。月商100万円なら100万円です。借りずに、売上を増やさずに手当てできる資金は、ここにあります。
- 切り出し方を間違えなければ、関係は壊れません。取引を続けたい前提を先に置き、自分の事情を数字で言い、条文には触れても責めない。この三つです。
支払条件は、行政の側からも継続的に短縮が求められています。交渉を持ちかけることは、いま最も不自然でないタイミングだと思います。
本記事は、当社における審査の考え方をまとめたものです。判断の基準は事業者ごとに異なります。また、記載している条件は変更される場合があります。個別の法的判断については、弁護士等の専門家にご確認ください。
出典(2026年9月18日確認)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第4条・第6条 / e-Gov法令検索
- フリーランス・事業者間取引適正化等法 パンフレット / 公正取引委員会
- 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ / 公正取引委員会
- 下請中小企業振興法に基づく「振興基準」を改正しました(令和6年11月1日)/ 経済産業省・中小企業庁
- フリーランス・トラブル110番 / 厚生労働省・第二東京弁護士会
文責:株式会社オルカン 代表取締役 髙橋 稔

